多くの企業が直面する経営課題8選と取り組みのヒント

経営者にとっていつまでも尽きることのない悩みが経営課題でしょう。経営課題は、経営ビジョンを見据えた上で、ビジョンと現状とのギャップを解消する経営課題を設定し、具体的な実行計画に落とし込むといったプロセスで構成されます。

経営管理には決められた法規・基準があるわけではなく、経営陣の裁量によって設計されるものです。そして、その巧拙が企業間競争の帰結を左右するのです。

その中でも肝となるのが、正しい経営課題の設定と解決策です。 この記事では、多くの経営者が重視する経営課題をピックアップするとともに、課題解決に向けた取り組みのヒントを明らかにしていきます。

 

1 経営課題3つの前提

具体的な経営課題を紹介する前に、まず経営課題を考えるにあたっての前提条件を3つ紹介します。

 

1-1 「収益力の向上」は経営課題か

「経営課題は何ですか」とのアンケートに、多くの経営者が「収益力の向上」と答えます。よく考えてみれば、資本主義社会では「収益力の向上」は企業のミッションそのものです。 つまり、「どんなアクションをとって収益力の向上につなげるか」を深掘りして、自社の経営課題を探り出すのです。

 

1-2 独自性を追求しよう

例えば「コスト構造の改革」、同業他社でも異業種でも当てはまりそうな経営課題です。売上を落とさずに低コスト構造に改善するのは、並大抵のことではありません。 考えに考え抜いて、独自性の高い解決策を編み出さなければなりません。経営課題設定と解決策立案は、「経営をデザイン」する創造的なプロセスなのです。

 

1-3 総花的な経営課題はNG

多くの企業にありがちなのが、シェアアップ、製造コスト低減、間接部門生産性向上、事業構造の再編、人事制度の刷新などさまざまな経営課題を全て盛り込んでいるケースです。

企業が有する経営資源(人・物・金)には限りがあります。 いくつも経営課題を抱えると、経営資源も分散されてしまいます。 全方向で取り組みたくなるのはわかりますが、極力経営課題を絞り込んだ方が早く・大きな成果が見込めるのです。

 

2 経営課題10選と取り組みのヒント

それでは、経営課題と取り組みのヒントについて解説します。

 

2-1 組織能力の向上と優秀人材の獲得・育成

最近は、あらゆる業界で参入障壁が下がってまいす。薬機法と研究ノウハウで守られてきた代表的な既得権の世界、製薬業界でも、ヘルステックの波が襲いグーグルといったIT企業の参入が囁かれています。

どんなに優れたビジネスモデルも、短期間に追いつかれる時代です。永遠に安泰のビジネスモデルは存在しません。 では、高い収益を生み続ける源泉は何か。それは組織力であり、組織を支える人材です。企業にとって最も重要な経営課題です。

 

2-1-1 まずは自社の強みに直結するケイパビリティに注目する

組織力は最近ではケイパビリティとも呼びます。ケイパビリティは、競合に対して競争優位を有しなければなりません。とはいえ、あらゆる部署をまんべんなく強化するのは、効率的とはいえません。

一般的にはシェアアップや研究開発力など、成長性・収益性につながる組織ケイパビリティから着手します。 ただし強化のアプローチは、同業種でも一様ではありません。

例えばアップルはプロダクトの革新性やテクノロジーの導入に長けています。 同じIT企業でもアマゾンは、ITプラットフォームを基盤とした圧倒的なサプライチェーン構築を強みとしています。

つまり、自社の強みは何か、強みを磨くにはどんなケイパビリティを強化すべきかを考えていかなければならないのです。

ケイパビリティの基盤である人材は、緊急性が求められる場合は、外部からの調達(中途採用)で確保します。 ただし長期的には、研修とOJT(職務訓練)を通じて育成していくべきでしょう。その方が組織の遺伝子としてケイパビリティが根付くからです。

 

2-2 人的生産性の向上

今でこそ中国・韓国などに脅かされているとはいえ、日本の製造業は今まで高い生産性を誇り、企業の競争力を支えてきました。

この生産性を支えてきたのが、改善提案や小集団活動など現場における努力と工夫の積み重ねです。
一方、日本企業における切迫した課題は、先進国の中で最低レベルといわれるサービス業や小売業における生産性の向上です。

間接スタッフを中心としたホワイトカラーの生産性も、決して高いとは言えません。 サービス・小売業も、今までは低賃金でバイト・派遣社員を雇用できたので、低い生産性にも目をつぶってこれました。

そんな人的生産性の向上の改善索は大きく2つ。無駄のカット従業員が動かなくても回る仕組みを作ることです。

最近は人手不足や人件費上昇から、ファミレスにおける営業時間の見直し(お客の少ない深夜のクローズ)、量販店におけるセルフレジの導入などの取り組みがみられるようになりました。

ホワイトカラーの生産性向上では、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)など、ITテクノロジーの活用が注目を浴びています。

ただし、RPA等を活用するだけでは、解決につながりません。RPA導入は、業務プロセスの明瞭化が前提条件です。 どこの企業でも間接スタッフの業務プロセスは属人化しブラックボックスになっているケースが多いので、まずプロセスを共有化し、場合によってはプロセスの無駄を省いたりと改善した上でRPA導入を図らなければなりません。

 

2.3 コスト低減-コスト構造の改革

コスト低減は、確実に利益確保に直結します。しかし短期的なコストカットは、あくまで応急処置に過ぎず、スタミナドリンクを飲んだようなものです。
カフェインで一時的に元気が出るだけで、やがて飲む前以上の疲労感に襲われます。

長期的には、ただコストを削るだけでなくコスト構造を変えていくことが大切です。つまりコスト低減を通じ、企業の体質を変え、体力(成長力や組織としての実行力)向上につなげていかなければなりません。

最も簡単なコスト構造改革とは、必要コストの優先順位を明確にすることです。

一般的には、企業の競争力に直結するコスト(研究開発・ブランド力強化・品質保証)などを優先し、直結しないコスト(経理・総務・人事などのバックヤード)を極力抑えます。

コスト構造改革は、各部署に任せていても思い切ったことができません。全社で横断的なプロジェクトを編成し、経営管理部門が事務局を仕切る、といったケースが多く見受けられます。

もし自社のノウハウに不安があるようなら、コンサルを使うのも選択肢の一つです。高額なフィーが気がかりですが、成果報酬型でコスト低減効果に見合ったフィーに抑えることも可能です。

 

2-4 研究開発力の強化

IOT(インターネットオブシングス)・AI(人工知能)・バイオテクノロジー・遺伝子工学・再生可能エネルギーなど、テクノロジーはかつてないスピードで進化しています。
こうしたテクノロジーをリードして新しいプロダクトやビジネスモデルを創出できるかが、企業の成長性を大きく左右します。

そしてテクノロジー革新の基盤となるのが研究開発力です。レベルの高い研究開発を続けるには、お金がかかります。

 

売上高研究開発比率を一定に保つ

そこで指標として重要なのが、売上高研究開発費比率(売上高に対する研究開発費の割合)です。 研究開発は1年で成果が出るシーズは少なく、継続した積み上げが大切なのです。業績が振るわないときなどは研究開発費を一定に保つのは難しいものです。しかし、比率であればなんとか可能になることでしょう。長期的に成長を視野にいれている企業こそ、売上が苦しいときもこの売上高研究開発比率を一定以上に保ち続けるのです。

 

社外の力を借りる

一方で、テクノロジーや市場ニーズが目まぐるしく移る中で、自前の研究組織をいくら強化してもキャッチアップ出来ないという事態が生じています。そこで最近脚光を浴びているのが「オープン・イノベーション」です。 全てを自前で開発するのではなく、研究機関(大学・独立行政法人)、国内外のベンチャー企業、異業種企業とのアライアンスを通じて社内の優れた研究成果を取り込むという発想です。

 

2-5 売上とシェアの拡大・営業力や販売力の強化

営業拠点や販売網は、売上・シェア獲得の基盤です。営業力・販売力の強化は、量的拡大・質的向上・サポート体制といった3つの側面から取り組みます。

 

2-5-1 量的拡大

量的拡大は、例えば、販売エリアの拡大、新規出店の促進、営業パーソンや販売スタッフの増員です。

私たちの日常で考えれば、「お気に入りのコンビニへ行く」よりも「最寄りのコンビニへ行く」方が多いのではないでしょうか。
その場合は店舗を増やすことがシェアの拡大に繋がりやすくなります。

人的増員も同様で、例えば医療機関向け医薬品の売上は、MR(メディカル・レプリゼンタティブ)の数にある程度比例すると言われてきました。量的拡大はすなわち顧客接点の拡大であり、売上・シェアと一定の相関関係が認められるのです。

 

2-5-2 質的向上

質的向上は、一店当たりの売上高、営業スタッフ一人当たりの売上高向上です。そのためには、営業でいえばベストプラクティス(成績上位営業スタッフの行動様式)の共有、個人でなくチーム営業の推進、さらにはインセンティブ(成績優秀者の褒賞)などが考えられます。

 

2-5-3 サポート体制

サポート体制は、営業スタッフが営業に専念できる環境を作ること、物的・経済的に営業活動を支援することにあります。具体的には営業事務や倉庫整理・たな卸の支援、販促物の提供、キャンペーンの企画・推進、営業・販売スタッフに対する研修実施などがあげられます。

 

2-6 ブランド力の向上

営業・販売攻勢で短期的に売上やシェアを増やせても、継続的に顧客に愛され続けることはできません。マーケティング全体(商品・価格・チャネル・プロモーション)を徹底的に洗い直し、ブランド力を向上させていかなければ、優良顧客は獲得できません。

こうした取り組みで重要なのは、長期的な成果にフォーカスすることです。その中で考えたい2つのマーケティングがあります。

 

人の記憶に残る施策を打つこと

一般的ではありますがやはり重要なのは広告などによる「認知と刷り込み」です。

例えばターミナル駅の地下道で柱巻きの広告を多く見かけます。たった一度見た(認知した)だけでは、忘れてしまうことが多いでしょう。毎日の通勤で目にとめているうちに、だんだんと記憶に刷り込まれていきます。

もちろん広告だけでなく、店頭での販促活動、商品ラインナップの見直し、販売スタッフコスチュームの刷新など、複合的なマーケティング施策を打ち「刷り込み」の機会が多くなることで顧客獲得につながりやすくなります。

 

投資効果を測定すること

もう一つは、マーケティングROI、つまりマーケティング投資効果測定です。 たとえば、主力ブランドの売上が増えたとします。では、なぜ増えたのかを、広告(TV・雑誌・ネットなど)や販促といった施策でどれが効果があったのか、それとも敵失(競合ブランドの調子が悪い)なのかといった視点で分析します。

もうTV広告を打てば売り上げに結び付く時代は、終わりました。メディアミックスを含めたマーケティングミックスを駆使して限りあるマーケティング原資を巧みに配分し、最小の投資で最大の効果を出せる企業だけが勝ち残るのです。

最近マーケティングROIは、心理学的要素も取り込んでより精緻になりつつあります。導入に当たっては、広告会社などのサポートを受けるのも選択肢の一つです。

 

2-7 物流効率化・サプライチェーン改革

かつては物流の効率化といえば、物流倉庫における入出庫作業の効率化、トラックの積載効率見直しや配送の迅速化などを、物流部門が単独で手掛けていました。 最近は商品開発・生産・プロモーション・物流・販売といった機能を一連の工程(サプライチェーン)とみなし、パフォーマンスを最大化するSCM(サプライチェーンマネジメント)が一般的になっています。

SCMは、個別の部門がバラバラに動いても上手くいきません。各部門が連携を図れる、そういった体制を構築することが求められます。

 

2-8 事業基盤再編・ポートフォリオの見直し

今まで取り上げた経営課題は、いずれも既存の事業領域・組織構造・ビジネスモデルに手を付けないことを前提としています。 ところが、グローバルに競争が激化し、テクノロジーも急速に進化する中で、事業基盤そのものが陳腐化してしまう、といったケースも珍しくありません。

アメリカに本拠をおくスーパーマーケットチェーン・ウォルマートが、傘下の西友グループを売却、日本市場からの撤退を模索していると、最近話題になっています。一方で今年に入ってからも、ボノボスといったオンライン通販系の企業を矢継ぎ早に買収しています。

世界最大の小売業といえど、こうした事業再編に取り組まなくては、アマゾンと闘い、生き残ることができないのです。

事業基盤再編やポートフォリオの見直しは、社員の転籍・希望退職や得意先・サプライヤーの見直し等ナーバスなファクターも多いのが特徴です。トップマネジメントの判断が鍵を握る経営課題であり、経営陣と少数の経営管理スタッフが中心となって進めるのが一般的です。

 

3 まとめ-経営管理スタッフはビジネスを知るべし

経営課題を取り扱う経営管理の世界は、人材育成・営業・マーケティング・サプライチェーンなど、経営活動全般に広く精通していなければなりません。

では、浅く広く知っていれば良いのでしょうか。

これは私見ですが、優秀な経営管理スタッフには、特定の分野で奥を極めた人材も多いようです。 新薬剤の研究開発、海外新工場の立ち上げ、新しい取引体系の構築など、その経歴はさまざまです。

広く浅い視野だけでなく、一つの物事を深掘りした経験を持った「T型人材」です。経営課題解決の取り組みには、こうした物事を突き詰める行動が、ときには役に立つのかもしれません。